■吹奏楽コラムVol.5■

さて、第5回目は作曲家 坂井貴祐先生へのインタビューです。
坂井先生は、2000年下谷賞を受賞され、
またアンサンブル作品も多く手がけ 活躍されております。
聞き手:神長 一康・2003.9.16掲載)


 

■プロフィール
坂井 貴祐(さかい・たかまさ)
1977年北海道生まれ。
北海道立中標津高等学校を卒業後、尚美学園短期大学(現 ・尚美学園大学)音楽学科作曲専攻を経て、 東京ミュージック&メディアアーツ 尚美コンセルヴァトワール音楽芸術表現コース作曲部門(パフォーミングアーツ 専攻)を卒業。
これまでに作曲を松下功、延原祐の両氏に師事。
1997年、シュガ ーホール・パーカッション・フェスティバル'97 作曲公募に入選。
2000年、「セ レモニアル・マーチ」が、JBA(日本吹奏楽指導者協会)作曲賞「下谷賞」を受 賞。
現在、フリーの作曲家として吹奏楽や劇・映像音楽を中心に活動している。




それでは坂井先生宜しくお願い致します。
■Q 1 音楽を始められたきっかけは何ですか?

★具体的には思い出せませんが、小さい頃から、「ドラえもん音頭」のテープに合 わせながら
タンスを太鼓のように叩いたり、家にあったウクレレを持ち出して遊 んだりはしてましたね。

★小学校の時に一度、「ピアノ習うか?」と誘われたこともありましたが、 「女の子みたいだからヤだ!」と
断ってしまいました。その時 習っていればこんなにピアノで苦労することもなかったんでしょうけど(笑)
ただ、そのころによく遊びに行っていた音楽の先生の家で、ベートーヴェンやら レスピーギやら
チャイコフスキーやらの音楽を、先生が指揮者の真似をしたりバ レリーナの真似をしたりしながら(注:男の先生です)
おもしろおかしく大音響 で聴かせてくれていたので、クラシックは自然と好きになりましたね。

■Q 2 作曲を始められたきっかけは何ですか?
★いとこの兄ちゃんの影響です。少し離れたところに住んでいたので、毎年、お盆 と正月に会うくらいでしたが、
行くたびにキーボードを教えてくれたり、「こん な機材買ったんだ」と見せてくれたり、
「こんな曲作ったぞ」と聞かせてくれたりしていたので、それにあこがれて自分もいつの間にか…。
と言っても、いとこ の兄ちゃんが作るのはインストや歌モノ、テクノといったものだったので、
当時 僕が作っていたのもそういう系統でしたけど。
初めて買ったシンセもレコーダー もリズムマシンも、すべてその兄ちゃんと一緒です(笑)あと、
T-スクエアもど きみたいなのも作ってましたね。ドラムだけはなぜかX-Japanって感じでしたけ ど(笑)

★吹奏楽を作るようになったのは尚美短大を卒業してから。
ヤン・ヴァンデルロースト氏の曲を生で聴いて「やっぱ吹奏楽っていいな」と思ったのがきっかけです ね。
作曲者本人の指揮による尚美W.O.の定期演奏会でのことです。

■Q 3  坂井先生が小・中・高校生時代の吹奏楽体験はございましたか?
またそれはどのようなものでしたか?
小4から高2まで、吹奏楽部でチューバを吹いていました。初めは「つまんない楽器だな〜」と思っていたものの、
やっていくうちに音楽を陰で操ることができ ることに味を占めて(笑)、ハマりました。

高3の時には指導者が転勤してしま った関係で、私が代わりに学生指揮者としていろいろな舞台にも
立っていましたが、選ばれたはいいものの、合奏のトレーニングから音楽作りまですべてを任さ れていたため、
コンクールや高文連で代表になるまでの期間はものすごいプレッ シャーでしたね。
でも、その時の指揮者としての経験や、OBの方々からのアドバ イスは今に役立っていますし、
「趣味じゃメシは食っていけないんだぞ」とこの 道を反対していた両親が進学を許してくれるようになったのも、
このことがきっかけだったので、今となってはいい思い出です。

■Q 4 お好きな作曲家、またお好きな作品は何ですか?
★吹奏楽ではやはり、ヤン・ヴァンデルロースト氏ですね。
最初に「マーキュリー」 「オリンピカ」にハマり、その後「モンタニャールの詩」にハマりました。

★その 他、シュミットの「ディオニソスの祭り」、ホルストの「第1組曲」、
ヴォーン ・ウィリアムズの「イギリス民謡組曲」も傑作だと思いますし、
エレビーの「パ リのスケッチ」やA.リードの「エルサレム賛美」も好きですね。

★邦人では、鈴木 英史先生や真島俊夫先生の作品、そして、天野正道先生の、特に「メタモルフォーセス」や
「喩伽行中観吾妻鏡異聞」といった作品が好きです。

★クラシックでは、バッハの「マタイ受難曲」、ベートーヴェンの「第九」、
スト ラヴィンスキーの「春の祭典」「火の鳥」、バルトークの「管弦楽のための協奏 曲」、
松下功先生の「夢の航跡」の他、ロマン派の作曲家やラヴェル、オネゲル、 マクミランあたりが好きですね。

★他には、矢井田 瞳、松居慶子、デビッドフォスター、ケンイシイといったとこ かな?

■Q 5 さて坂井作品の新作、吹奏楽のための叙事詩「ジャンヌ・ダルク」、 「アプ ローズ!」の
2曲についてお伺いします。
この作品を書かれたきっかけとご自身の持つイメージはどのようなものでしょうか。
また演奏の際のアドバイスなどをぜひお願いします
★これは私の最新作であり、「ジャンヌ・ダルク」に至っては続編を書いている最 中ですが、
共に、航空自衛隊中部航空音楽隊の委嘱により作曲したものです。
「ジャンヌ・ダルク」は文字通り、フランスを救った少女・ジャンヌのことを音 楽にしたもので、
ジャンヌが生まれたドンレミ村の情景に始まり、戦い、勝利、といった場面を描写 しています。

スクールバンドのレパートリーとしても活用で きるように場面のイメージをしやすく作りましたが、
その性質上「すべての楽器が鳴らしっぱなし」という状況に陥りかねないので、
音の強弱や音色のメリハリ をつけた演奏を心がけて欲しいと思います。

「アプローズ!」は、ブロードウェイ・ミュージカル風の曲想で2分足らずの短 い作品です。
アンコール・ピースとして「拍手が鳴り響く中、曲が始まる」とい う場面を想定して作りました。
堅苦しい演奏ではなく、遊び心のある「聴く側も 吹く側も楽しくなるような」演奏が理想ですね。
(これは、私の金管8重奏曲 「シアターミュージック パート1」についても同様ですが。) 

アンコールとして演奏する際には思いっきりはじけて、一番最後にあるバスドラの一撃も、
同 時に全員で「Ya!」と叫んだり(オプションとして記譜)、
ポーズをとったりク ラッカーをならしたりして、お客さんをアッと驚かせてほしいですね。  

■Q 6 これまで21世紀の吹奏楽”「響宴」の出演や、現在も多数委嘱作品など
手掛けられておりますが、 「響宴」や委嘱初演などでの演奏会におきまして、
何か思い出やエピソード、また初演を聴かれる時の作曲家としてのお気持ちな

ぜひお聞かせ下さいませ。  
委嘱初演ではありませんが、私のデビュー作となった「セレモニアル・マーチ」 を
いち早く取り上げてくださった富山ミナミ吹奏楽団の定期演奏会のことは忘れられないですね。

打ち上げの席での皆さんのあたたかさや、帰り際に「応援して るからね!」と
握手をしてくださった方のことは、その後作曲に行き詰まったと きや、
「やっていけるのだろうか…」と悩んだときに大いに励みになりました。
失敗談もいくつかありますが、まぁ、それはそれとして(笑)

初演を聴く際は「きちんとイメージ通 りの音が鳴るだろうか」という不安が大き いです。
緊張してまともに聴けていないことも多いですね…

■Q 7 作曲をされる時は書かれる前、まず作品のイメージなど様々な事を
お考えになられるかと思いますが、坂井先生はどのように作曲をされ
一つの作品 を創り上げていかれるのでしょうか。
具体的な題材がある場合は、まずそれについての本を読んだりその場に実際に赴 いたりして
イメージをふくらませます。無い場合は、どういう時に演奏してもら いたいか、
どういう人たちを中心に演奏してもらいたいか、どうやったら退屈し ないで聴けるか、など考えたうえで、
実際にその曲が演奏されている風景を想像 しながら作ることが多いですね。

実際の作曲は、まずキーボードを弾きながらラフなメロディーや和音・対旋律な どを
五線譜に書いていき、 ある程度まとまったらFinale(楽譜浄書ソフト)に打ち込んでいって、
パソコン上でオーケストレーションしていくことが多いです。

■Q 8 ご趣味は何ですか?
★ …お酒かな?(笑)

■Q 9 今後の活動、現在手掛けられている作品、
今後どのような作品を創作したいとお考えですか?  
   
★現在は、早稲田吹奏楽団からの委嘱作品「オデッセイ〜吹奏楽のための祝典序曲」と 、
富山ミナミ吹奏楽団からの委嘱作品「万葉の記憶〜越中幻想」を作曲中です。

★「オデッセイ」の方は12月23日に東京都の葛飾シンフォニーヒルズで、
「万 葉の記憶」の方は来年3月に富山県社会人吹奏楽フェスティバルで初演予定ですので、
お時間のある方はぜひ聴きにいらしてください!

現在はほぼ吹奏楽一本ですが、今後はそれだけでなく、劇音楽 や映像音楽、テーマパークで
流れたり演奏されたりする音楽など、いろいろチャレンジしていきたいですね。
自分の曲で喜んでくれたり、癒されてくれたりする人が少しでもいたらいいなと思います。

★様々な質問にお答え下さいましてありがとうございました!
それでは最後になりますが、このページも将来を担う、若き小中高生のみなさんが
たくさんご覧になっている事と思います。
吹奏楽に取り組む小中高生のみなさんへ坂井先生からメッセージをお願い致します!!
ありがちな表現ですが、心を込めて演奏することを忘れないでほしいです。
技術 的に完璧でも聴いていてシラけてしまう演奏に出会うこともありますし、
技術的 に今一歩であっても聴いていて感動する演奏に出会うこともあります。

「難しい曲をいかに速く正確に演奏するか」「強い音をどれだけ大きく吹くか」というこ とに
命をかけたり、「先生がクレッシェンドって言ったからクレッシェンドする」 と
機械的に演奏するよりも、もっと積極的に、「この部分はどういうふうに吹いたらいいか」
「どうしたら聴き手に伝えられるか」といったことを考えながら演奏した方が、
深い音楽、人に感銘を与えられる音楽が作れると思います。頑張ってください!


★坂井先生、お話どうもありがとうございました。
富山ミナミ吹奏楽団委嘱作品、早稲田吹奏楽団委嘱作品、それぞれの新作とても楽しみですね。
坂井先生に質問などございましたら下記メールまでお気軽にどうぞ♪
また坂井先生のHP「Espressivo-坂井 貴祐WebSite」もございます。
ぜひご覧下さいませ!

坂井先生貴重なお話ありがとうございました!!


★今回のご意見・ご感想、坂井先生へのメッセージなど
ぜひお待ちしております!!
メールでこちらまでお願い致します。
             


 

 

 

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