■吹奏楽コラムVol.10■

さて、第10回目は作曲家としてご活躍の戸田顕先生へのインタビューです。
作曲から演奏まで様々なお話をお伺いしました。
聞き手:神長)


戸田顕(とだ・あきら)
1975年(昭和50年)3月、国立音楽大学器楽科(ユーフォニアム専攻) 卒業 同年、東京芸術大学大学院音楽研究科入学。ユーフォニアムを大石清氏、指揮法をディ ビット・ハウエル氏に師事する。 大学在学中より、ユーフォニアム奏者として活躍し、1978年、指揮者としてデビュ ー。以後、指揮者、作編曲家クリニッシャンとして活動している。  

吹奏楽作曲家、J.スウェアリンジェン氏、R.シェルドン氏、F.ベンクリシュートー博 士(1997年逝去)らを数度に渡り日本へ招聘し、吹奏楽クリニック演奏会を開催。 1994年12月、1997年4月、2度にわたり、米国イリノイ州立大学教育学部音楽科にて「日本の吹奏楽教育の現状」について講演を行うなどし、国内外での管楽器教育にも熱心に取り組んでいる。 1998年11月、米国音楽教育機関紙「UP DATE」で紹介され、同年開催された音楽教育カンファレンスで大きな注目を浴びた。  
近年、創作活動も盛んに行い、吹奏楽曲、管室内楽、合唱曲、ピアノ曲など次々と発表している。吹奏楽作品「平和への行列」は2001年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用された。




それでは戸田先生宜しくお願い致します。
■Q 1 音楽、作曲を始められたきっかけは何ですか?
★音楽とは全く無縁な家庭でしたが、中学時代に友人から勧められ吹奏楽部に入部したのが始まりです。
顧問の先生から「お前はこれをやれ」と名前も教えられずに渡された楽器がユーフォニアムでした。
以後暫くはユーフォニアム一筋でした。  
そのころ、ただ音符を並べただけの楽譜を部員の皆に音を出してもらったことが非常に嬉しく、
それがきっかけで楽譜を書くのも楽しいなぁと思いましたが、まだ作曲家になろうなどとは
考えてはおりませんでした。
音楽大学在学中にも時々音符を並べ、演奏仲間にその音出しをお願いしたりはしておりましたが、
40歳代半ばになってアメリカ の作曲家ベンクリシュートー先生にお会いしたのが大きな転機となりました。
奥様とお二人並ばれて、お二人で私を指さしながら「あなたは楽譜を書き続けなさい」と、
この事がなかったら既に音楽人生を辞めていたかも解りません。


■Q 2 お好きな作曲家、またお好きな作品は何ですか?
★好き嫌いはほとんどないのですが、特にバッハ、モーッアルト、
ストラビンスキー、 ヒンデミット....、まだまだ沢山ありますね。


■Q 3 中学・高校と吹奏楽をやられていたとのことですが、
ご自身の吹奏楽体験はどのようなものでしたか?
また当時思い出に残る作品などはございますか?
中学時代は指導は厳しいものでしたが楽しかったですね。
勿論コンクールなどにも参加してはおりましたが今のように過熱した状態ではなかったので、
下手でものびのびとした活動をしていたと思います。コンクールはいつも負け放しでしたが...。  

高校時代は、吹奏楽部は有名無実の状態でしたので所属はしたものの隣町の高校へお邪魔して
仲間に入れてもらっていました。そこの顧問の先生も大らかな方で快く迎え入れていただきました。
今でも感謝しております。
中高生時代は誰それの作品とかには全く興味が無く、とにかく楽器を吹くことが好きで行進曲を
よく演奏していたことしか覚えていませんねぇ。あとは自宅でレコード(まだCDは無かった時代です)を
よく聞きましたが、御多分に漏れずベートーベンの「運命」やドヴォルザークの「新世界」などでしたね。
冬、雪に反射した月明かりが窓から差し込み、ほんのりとした明るさの中でチャイコフスキーの
「アンダンテ・カンタービレ」を聞きながら眠りに入るのは至福の時でしたね。



■Q 4 先生は2001年度課題曲『平和への行列』を作曲されました。
作曲された事で当時、各団体の演奏を聴いて感じられた事や、印象に残った事など、
課題曲を書かれた事で感じられたことは何ですか?
★この時は自己反省も含め本当に色々なことを考えさせられました。  
先ずは自分の創作力の未熟さを痛感させられましたし、より精進しなくてはと反省しきりです。
でも、色々な方々から激励の連絡を頂いたり素晴らしいアドヴァイスを頂いたり嬉しいことも
沢山ありました。

「平和への行列」にはピッコロのソロがありますが、静岡県のある高校生でしたが、
そのソロの演奏が本当に素晴らしく、 感動しましたね。
単に技術的に上手なだけではなく演奏に優しさがあり、聞いている人を和ませる演奏でしたね。
こうした演奏に出会えたことは私にとって幸せだと言っても過言ではないですし、
高校生でしたので驚きもひとしおでした。  
更に関西の方でしたが「平和への行列」をイメージしたイラストを描いて下さった方 が
いらっしゃいました。
お子さんが吹奏楽部で活動されているらしく、それで小生の作品を耳にすることがあり、
印象をまとめて下さったものなのですが、さすがプロフェッ ショナルのイラストレーター、
本当に素晴らしいの一言です。
自慢して色々な人に見せびらかしてしまいました。
そのイラストは未だに楽譜のケースに入れて持ち歩いており ます。

ただ残念なのは、「平和への行列」に対し根拠のない誹謗中傷などもあり、
吹奏楽ファンが吹奏楽社会を低落させる原因にもなりうる一面を見たような気もいたしました。
更に残念なことは、この作品の発表後、御存じのとおりアメリカでの 同時多発テロが起こり、
悲惨な状況をテレビなどで目の当たりにすることになりました。
その時は私自身の無力さを感ぜずにはいられませんでしたが、微力ながらも平和運動に対する
継続的な活動は
するべきとあらためて考えさせられました。


■Q 5 さて戸田作品「An Old Temple」「杜と風」の2作品についてお伺いします。
この作品を書かれたきっかけとご自身の持つイメージについて、
また演奏の際のアドバイスなどをお願いします。 
「An Old Temple」 は栃木県の足利市民吹奏楽団の委嘱によって書かれたものですが 、
足利市内にあるお寺、「鑁阿寺(ばんなじ)」をテーマにしたものです。
地元の方々からは「大日様(だいにちさま)」と呼ばれ親しまれているお寺です。
歴史舞台にも登場する足利尊氏が奉られていますし、足利学校も直ぐ側にあります。
数百年にも及ぶ時の流れを見てきたお寺が、その歴史を語るように表現できればと思って
創作したものですが、
特にティンパニー奏者にとっては高度な技術が要求されると思います。
途中、抽象音楽的な部分がありますが境内の様子が目に見えるように表現を工夫して頂けたらと思います。  

「杜と風」は宮城県仙台市開府400周年を記念して委嘱されたものです。
仙台市へ 向かう電車の窓に流れる景色を見、見知らぬ土地へ出掛ける期待感を持ち、駅へ降り立ったとたん、
伊達政宗公の歴史を感じ、青葉の緑が目に強く、またさわやかな風を全身に受けて街を歩くなどのイメージが
感じられると嬉しいですね。


■Q 6 吹奏楽でユーフォニアムを担当されている小・中高生は
たくさんいらっしゃると思いますが、 ユーフォニアム奏者の戸田先生から
吹奏楽でユーフォニアムを演奏する上でのアドバイスを頂けますでしょうか。
またユーフォニアムとチューバのアンサンブルも多く演奏されますが、
アンサンブル演奏の際のアドバイスも お教え頂けますでしょうか。
★私自身は現役奏者を離れて既に数十年経ちますので適切なアドヴァイスが出来るかどうか解りませんが、
色々な吹奏楽部へお邪魔して気が付くことは、やはり基礎奏法での問題が多いように思います。
特に呼吸の問題が殆どで、何故そんなに不自然な奏法をするのかと疑問さえ沸くことがあります。
指導に出向いて最初に注意することはやはり姿勢の悪さですし、不自然な呼吸の問題です。
いつも口にすることは「自然な形で座り自然な呼吸をすること」、
「自然な奏法をすること」になってしまいます。  

★アンサンブルなどでは、これも基本的なことではありますが、お互いによく聞き合うことですよね。
自己中心的な演奏はアンサンブルにはならないし、技術もしっかりしていなければ仲間の演奏に
配慮することもできなくなります。それらが解決されて初めて 聞く耳を持つわけですので、
基本的な練習は解決済みの上でお互いによく聞くことですね。  
今は色々な雑教本や雑誌などで奏法やアンサンブルについてのアドヴァイスは簡単に手に入りますので、
そうしたものを参考にすることもよいと思います。


■Q 7 先生はこれまで日本、また海外においての吹奏楽教育に
多く取り組まれ研究されておりますが、 最近の日本、また海外の吹奏楽を聴かれ、
何かお感じになられている事はございますか?
また今後吹奏楽による音楽教育について望まれる事などはどのようなものでしょうか。

先ずアメリカとの大きな違いは音楽の授業として吹奏楽が行われていることです。
学校の規模によっては吹奏楽が無い学校もありますが、大規模校では吹奏楽の他に
オーケストラ、合唱団などもあります。
指導内容もシステマティックに構成され、グレードを無理に高いものに設定せず、
のびのびと演奏できる環境があるように思います。
ともするとコンクール一辺倒になりがちで精神論にばかり力が入る日本の指導システムとは
大きく違いますので
技術的には日本の方がはるかに高いものがあるように思います。 が、本質的な
音楽表現や基礎奏法の上では、 後に大きく成長する可能性を秘めています。
中学生より高校生、高校生より大学生とグレードが上がる度にその演奏能力は高まっていきます。
また社会人になっても演奏を続ける人も沢山いらっしゃいますし、例えば日本で耳にすることは、
嫌気が差したので高校へ進学しても 吹奏楽は続ける意志はな無いどという話は、
今の私はアメリカで耳にしたことはありません。
こうした点については日本も見習うべきものがあるように思います。

更に、大規模校などでは各楽器毎に専属の指導者を抱え、常に専門的な指導を
受けられるシステムを持っている学校もありますし 、小規模校などでは、
その街に登録されている指導者を派遣していただき同様に専門的な指導を受けられるようになっています。
そうした仕組みが組織化されていることは非常に嬉しいことで、日本でもそうした環境がより発展した状況で
確立されるといいなぁと感じています。  

またコンクールについても、地域によって違いがあるものの、色々なコンクールがありますし、
またそのコンクールのスタイルも初見試奏やコンサートなどのプログラミング能力なども問われて
審査されますので、 限られた作品の演奏が上手であれば良いというもとは大きく違います。
よってコンクールに対する概念も大きく違っているように感じます。
日本においても幾つかの吹奏楽に関わる組織があります。しかしながら、その組織どうしの
対立もあると耳に入ってきます。
できるならば吹奏楽の発展のためにも健全な環境が出来上がれば底辺の底上げにも繋がるような気がします。



■Q 8 今後の活動、現在手掛けられている作品を教えて下さい。
現在幾つかの委嘱作品に取り組んでいます。また管室内楽の作品にも取り組む予定です。
また、夢として吹奏楽伴奏のオペラやオペレッタのスタイルが確立できないかぁなと思案中です。
誰か御協力を頂ける方がいらっしゃいましたら御連絡下さい。


■様々な質問にお答え下さいましてありがとうございました!

それでは最後になりますが、このページも将来を担う、
若き小中高生のみなさんがたくさんご覧になっている事と思います。
吹奏楽に取り組む小中高生のみなさんへ戸田
先生からメッセージをお願い致します!!
★とにかく楽器を楽しく演奏して下さい。音楽を楽しんで下さい。  
そしてどこかでお会いした時はその楽しさを聞かせて下さい。


★戸田顕先生、大変興味深いお話、
どうもありがとうございました。


●戸田先生のホームページもございます。
HPはこちらです。

★また今回のご意見・ご感想、戸田
先生へのメッセージなど
ぜひお待ちしております!!
メールでこちらまでお願い致します。
             


 

 

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